「障がい者A型就労って実際どうなの？」そんな疑問を持つ方、多いのではないでしょうか。特に障がいのあるご家族の将来を考えるとき、就労の選択肢について知りたいことがたくさんあるはずです。
今回は障がい者グループホームと就労継続支援B型を運営する私たちが、A型就労の現場の声をお届けします。支援する側と支援される側、双方の視点から見た「リアルな姿」を包み隠さずお伝えします。
この記事では、実際にA型就労を経験した方の「最初は無理だと思っていた」という不安から始まるストーリーや、給料面での現実、そして家族や支援員が見た成長の軌跡まで、普段なかなか聞けない本音トークをお届けします。
「うちの子に合うのかな」「どんな施設を選べばいいの？」という疑問にも、失敗しない選び方のポイントをご紹介。障がいのある方の就労について考えるすべての方に読んでいただきたい内容です。
障がいがあっても「働く」という選択肢について、一緒に考えてみませんか？
障がい者A型就労支援事業所で働く現実は、外からは見えにくい様々な課題が存在します。今回は、A型事業所の支援員として5年間勤務する中島さん（仮名）と、そこで働く統合失調症を抱える山田さん（仮名）に、普段は語られない現場の実情について話を聞きました。
「利用者さんの能力を引き出したいけれど、納期に追われる現実があります」と中島さんは打ち明けます。A型事業所は一般企業と同様に最低賃金を支払う義務があるため、収益性を確保しなければなりません。「支援と事業のバランスが最も難しい。時に矛盾も感じます」
一方、利用者の山田さんは「体調の波がある中で決められた時間に出勤し続けるプレッシャーは想像以上」と語ります。精神障がいの特性として、日によって作業効率が大きく変動することへの理解が足りない環境もあると指摘します。
障がい特性への配慮と生産性のジレンマは常に存在します。「良い支援員は私たちの調子の変化に敏感です。でも企業からの受注を抱えているので、あまり無理を言えない」と山田さん。
現場では「合理的配慮」という言葉だけでは解決できない複雑な問題が日々発生しています。例えば大手企業との取引では、障がい者雇用の一環としての発注でありながら、一般企業と同等の品質や納期を求められるケースも少なくありません。
「利用者さんの成長を見守りたいけれど、事業所の経営状況も考えなければならない」と中島さんは続けます。障がい者雇用を促進する社会の流れの中で、A型事業所が抱えるこうした矛盾に光を当てることが、より良い支援体制構築の第一歩かもしれません。
障がいを抱えていると、一般企業で働くことは難しいと諦めてしまうことがあります。私も以前はそう考えていました。身体の不自由さや、周囲との関係性の構築に悩み、「私には働くことは無理なんだ」と思い込んでいたのです。
しかし、A型就労支援施設「ソーシャルギフト」との出会いが、その考えを大きく変えました。最初の面談で、支援スタッフは私の得意なことを丁寧に引き出してくれました。パソコン操作が比較的得意だった私は、データ入力の仕事からスタートすることになりました。
「最初の一週間は本当に緊張しました。ミスをしないか不安でしたし、他の利用者さんとうまくやれるか心配でした」と、当時を振り返ります。しかし、施設には同じような不安を抱えていた仲間がいました。休憩時間の何気ない会話から、少しずつ心を開いていきました。
A型就労の良さは、障がいに配慮した環境で働けることです。私の場合、集中力が続かないという特性があったため、45分作業・15分休憩というリズムで仕事を進められるよう調整してもらいました。これによって無理なくパフォーマンスを維持できています。
もちろん、順風満帆ではありませんでした。データ入力の仕事に慣れてきたころ、新しいソフトウェアの導入があり、覚えることの多さに押しつぶされそうになりました。そんなとき、支援員の方が「一つずつ確実に覚えていけばいいんですよ」と声をかけてくれたことで、少しずつ自信を取り戻せました。
現在では、データ入力だけでなく、簡単な経理業務も担当しています。「無理」だと思っていた仕事が「できる」に変わる経験は、何物にも代えがたい自信につながりました。
「障がいがあっても、適切な環境と支援があれば、働くことは決して無理な話ではない」—これが私のA型就労で学んだ最大の気づきです。収入を得ることはもちろん、社会とつながる実感や、仕事を通じた成長は、私の生活に大きな変化をもたらしました。
障がいのある方で就労に不安を感じている方は、まずはA型就労支援施設に相談してみることをおすすめします。NPO法人ゼロワン、株式会社ウィーキャンなど、各地に特色ある施設があります。「無理」と決めつける前に、可能性を探してみてはいかがでしょうか。
A型就労支援事業所における給料は多くの障がい者にとって生活を支える大切な収入源です。しかし実際のところ、この給料だけで経済的な自立を達成できているのでしょうか？
「最低賃金は保証されていますが、多くの場合、時間短縮勤務のため手取りは10万円前後になることが多いです」と語るのは、東京都内のA型事業所で支援員として働く佐藤さん（仮名）。
一方、利用者の山田さん（仮名）は「手元に残る金額は決して多くないけれど、障害年金と組み合わせることで何とか生活できています」と現状を打ち明けます。
全国の平均工賃を見ると、A型事業所の月額給料は約7〜8万円。これに障害基礎年金（約6.5万円〜）を合わせると、単身生活も不可能ではありません。しかし、都市部の家賃や生活費を考えると、厳しい家計のやりくりを強いられるのが現実です。
「仕事内容と給料が見合っていないと感じることもあります」と別のA型事業所利用者。高いスキルを持つ障がい者でも、一般就労と比べると収入格差があることが課題となっています。
一部の先進的な事業所では、付加価値の高い業務を取り入れることで給料アップを実現。例えばウェブ制作やプログラミングなどのIT関連業務を導入している「ココルポート」では、利用者の平均月給が12万円を超えるケースもあります。
「経済的自立を目指すなら、A型事業所での経験をステップに一般就労へ移行するケースもあります」と支援員。ただし、障がいの特性によっては長時間労働が難しいケースも多く、A型事業所と障害年金を組み合わせた生活設計が現実的な選択となっています。
自立への道のりは一人ひとり異なりますが、「できることを増やして少しずつ収入を上げていく」という地道な努力と、それを支える社会保障制度の両輪があってこそ、障がい者の経済的自立が実現できるのではないでしょうか。
障がい者A型就労施設に通い始めると、利用者本人だけでなく家族の日常にも様々な変化が現れます。「朝起きられなかった子が自分でアラームをセットするようになった」「休日の過ごし方が充実してきた」など、小さな成長が積み重なり大きな変化につながっていくのです。
大阪市内でA型事業所を運営する社会福祉法人ぽけっとの支援員・中島さんは、「最初は緊張して言葉少なだった利用者さんが、3ヶ月もすると職場の冗談に笑えるようになる瞬間が何よりの喜び」と語ります。
実際に、知的障がいのある息子を持つ田中さん(仮名)は、「就労前は外出を嫌がっていた息子が、今では『明日の仕事の準備をしないと』と自分から動くようになった」と目を細めます。工賃を受け取り、自分のお金で好きなものを買う経験は、自己肯定感を大きく高めているようです。
発達障がいのある娘を持つ鈴木さん(仮名)も変化を実感しています。「家では無口だった娘が、職場での出来事を饒舌に話すようになりました。人間関係の悩みも増えましたが、それも成長の証です」
支援員の視点からも、日常生活の変化は顕著です。京都府のA型事業所「ワーク・ライフ」の主任支援員は「挨拶ができるようになる、身だしなみに気を配るようになる、時間管理ができるようになるなど、社会人としての基礎が身についていく過程が見られます」と説明します。
特に印象的なのは金銭管理の変化です。給料日に全額使っていた方が、少しずつ貯金の概念を理解し、将来のために計画的に使えるようになるケースが多いといいます。
もちろん、すべてが順調に進むわけではありません。仕事のストレスから一時的に生活リズムが乱れることもあります。しかし、そうした波があることも含めて、就労を通じた成長プロセスだと支援者は捉えています。
静岡県の就労継続支援A型事業所「フロンティア」の事例では、毎月開催される家族会で、保護者同士が情報交換することで家庭での支援方法が広がり、職場と家庭の一貫した支援体制が利用者の成長を加速させています。
「できないことを嘆くのではなく、小さなできることに目を向けて褒める文化」を大切にしている事業所ほど、利用者の日常生活の変化が顕著だという調査結果もあります。
障がい者A型就労は単なる「働く場」ではなく、社会との接点を持ち、自立に向けたスキルを獲得していく重要なステップです。日々の小さな変化に気づき、それを認め、伝えることが、支援する側・される側の双方にとって大きな喜びとなっているのです。
A型事業所選びは就職活動と同じく、あなたの人生を大きく左右します。「どこでもいいから働ければ…」という考えは危険です。実際に現場で見聞きした失敗例や成功例を踏まえ、A型事業所選びで絶対に見逃してはならないポイントを解説します。
まず最も重要なのは「労働条件の確認」です。給与体系（最低賃金保障があるか）、労働時間、休日数、通勤手当などの福利厚生を必ず確認しましょう。特に注意したいのは「歩合制」を採用している事業所です。「仕事がなければ賃金も下がる」というリスクがあります。
次に「障がい特性への理解度」をチェックします。面談時に自分の障がい特性をしっかり伝え、それに対する配慮や支援体制について具体的な回答があるかどうかが重要です。曖昧な返答や「なんとかなります」といった言葉だけの事業所は要注意です。
「作業内容と将来性」も見極めポイントです。単純作業だけでなく、スキルアップできる環境があるか、一般就労を目指せるようなキャリアパスが用意されているかを確認しましょう。見学時に実際の作業を見せてもらい、自分に合っているかを判断することが大切です。
「定着率と離職率」も重要な指標です。「何年勤続の方がどのくらいいるか」「年間の退職者数はどのくらいか」など、具体的な数字を聞いてみましょう。高い離職率は職場環境に問題がある可能性を示唆しています。
信頼できる「第三者評価」も参考にしましょう。就労支援機関や相談支援専門員からの評判、口コミサイトの情報などを総合的に判断することが大切です。
最後に「見学と体験」は必須です。百聞は一見にしかず。必ず見学し、可能であれば体験実習を申し込みましょう。実際の職場の雰囲気、スタッフの対応、利用者同士の関係性など、書類だけではわからない情報が得られます。
ある利用者の方は「最初の事業所は給与が高いというだけで選んでしまい、支援が不十分で3ヶ月で退職。次は実習を経て選んだ事業所で2年以上働いています」と話していました。
A型事業所選びで後悔しないためには、複数の事業所を比較検討し、自分の目と耳で確かめることが何よりも大切です。あなたの強みを活かせる環境を見つけるための時間投資を惜しまないでください。
