「ITを活用した仕事なんて、自分たちには無理だと思っていました」
そんな声から始まった、とあるB型事業所の新しい取り組み。今、障がいのある方々が活躍する就労継続支援B型事業所で、パソコンやインターネットを使った作業が少しずつ広がっています。
しかし、ITを活かす道は平坦ではありません。成果を出すまでには、さまざまな試行錯誤やつまずきがありました。
この記事では、B型事業所における「ITチャレンジ」の具体例をもとに、成功と失敗から見えてきた学びをまとめてご紹介します。ITに興味のある支援者、家族、事業所関係者にとって、実践のヒントになるはずです。
まずは背景から。
ITの導入は単なる流行ではなく、いくつかの理由から注目されています。
これまでのB型作業所では、内職や軽作業、農作業などが主流でした。しかし、体調や特性によってそれらの作業が難しい方もいます。パソコン作業なら、自席で落ち着いて取り組めることもあり、選択肢の一つとして需要が高まっています。
感染症の流行以降、在宅作業への関心も増えました。ITスキルがあれば、将来的に在宅ワークという働き方も視野に入れられるようになります。
ブログ、デザイン、動画編集など、クリエイティブな面で力を発揮する利用者も多く、「好き」を仕事に近づける可能性もあります。
B型事業所で行われているIT関連の作業は、特別なスキルがなくても始められるものが中心です。主な例をいくつかご紹介します。
手書きのアンケート結果をエクセルにまとめるなど、シンプルな入力作業。タイピングに慣れることから始める利用者が多いです。
デザインツールを使って簡単な印刷物を作る業務。操作が単純でも、「自分が作ったものが形になる」ことで、達成感を得やすい作業です。
事業所の日常や活動内容を記事にする取り組みも増えています。スタッフが下書きをサポートしながら、利用者が文章を考えることもあります。
無料のツールを使い、写真に文字を入れたり、簡単な動画を作ったり。視覚的なセンスが活きる作業です。
オンラインで製品を販売している事業所では、商品の登録、受注管理、写真撮影などのITスキルが求められる場面もあります。
実際にIT導入がうまくいった事業所には、共通する「工夫」がありました。
いきなり難しい作業から始めず、「電源を入れる」「マウスを動かす」といった基本からスタート。成功体験を大切にしながら、ステップアップしていくことがポイントです。
一人ひとりに合わせて、進め方や目標を柔軟に調整。「みんな同じ」ではなく、「自分に合った方法」で進められる環境が安心感につながります。
支援者自身がITに詳しくなくても、「一緒に調べる」「一緒にやってみる」という姿勢が信頼につながります。手順を図解にしたり、動画で説明したりと、伝え方の工夫も効果的です。
単に仕事としてではなく、「写真を加工して遊んでみよう」「好きなアーティストの名前を検索してみよう」など、ITの楽しさを体験してもらうことで、自然と操作に慣れていく利用者もいます。
もちろん、すべてがスムーズに進んだわけではありません。多くの事業所がつまずいたポイントもあります。
「機械はこわい」「間違えると壊れるかも」と不安を感じる利用者も少なくありません。まずは“慣れる”ことが大切。壊れにくいタブレットや、壊しても大丈夫な環境で練習できるよう配慮する必要があります。
「何のためにこの作業をしているのか」が伝わっていないと、モチベーションが続きません。成果物が誰に届くのか、どう役立つのかを共有することが重要です。
支援者が苦手意識を持っていると、利用者にも不安が伝わってしまいます。外部研修に参加したり、オンライン教材を活用するなどして、支援者自身の学びの機会も必要です。
B型事業所でのIT導入は、単に「パソコンが使えるようになる」だけではありません。
それによって利用者が得られるのは、自己肯定感、社会とのつながり、将来への選択肢です。
たとえば…
「自分のデザインが商品として販売された」
「作った記事がSNSでシェアされた」
「地域のイベントチラシを任された」
こうした体験は、利用者の中に「もっとやってみたい」「自分にもできるかもしれない」という前向きな気持ちを育てます。
ITは日々進化しており、完璧なマニュアルはありません。それでも、多くのB型事業所が「失敗を恐れずに試してみる」姿勢で一歩ずつ進んでいます。
重要なのは、できる人を育てることではなく、“できた!”という体験を共有できる環境をつくること。
ITの活用を通じて、障がいのある方々が社会とつながり、自信を持って生きる力を育てられる未来は、確実に広がっています。
あなたの選ぶ 社会へのかけ橋
障がいを持つ方と社会をつなぐ“かけ橋”となり、一般社会の中で活躍するための継続的な支援を実施しています。